対応してくれたのは若い男性従業員。当然、「契約者の情報を漏らすわけにはいかない」ときっぱりと断られたが、簡単に引き下がるわけにはいかない。どれほど悲惨な事件で、報道する意味があるのかを必死に訴えると、従業員は「上司に聞いてくる」と言い残し、事務所の奥に入っていった。
私の懇願にほだされたのか、それとも単に不注意だったのかは分からない。テーブルの上に「契約書」と書かれたファイルが置き去りになっていた。この状況で盗み見ない新聞記者なんているのだろうか。どきどきしながらファイルを開くと何ページ目かに宅間の名前が目に飛び込んできた。
住所を丸暗記し、ファイルを閉じてから1分もたたないころ、従業員が戻ってきた。「申し訳ありませんが、やはりお答えできません」。心の中ではお礼を言いながら「そうですか…」と残念そうに装って事務所を後にした。外に出ると、ハイヤーに飛び乗った。